広島・賀茂泉酒造に体験実習に行って来ました

二月の連休を利用して、広島県西条にあります賀茂泉酒造さんに一泊二日の蔵元体験実習に参加してきました。これは、きき酒師を認定しているSSIという協会が主催する、酒造りの真っ最中の酒蔵に泊り込んで行うかなり本格的な酒造行程の勉強会です。きき酒師の資格を取ってからもなお理解できないほど、日本酒は複雑で難しい特有のプロセスから造られています。じかに接することでより理解を深めたい、また、日頃良く扱っている東北・北陸のお酒に比べなじみの薄い広島のお酒を良く知りたいという思いで、臨みました。

まず、広島・西条の町に着いてびっくりしたのが、そこが蔵元8社が隣同士で軒を連ねている酒造りの街だったということです。灘・京都伏見と並ぶ日本三大名醸地の一つと聞いてはいましたが驚きました。水源である近くの竜王山からの良質な地下水を求めてごく限られた場所に密集したとのことでした。

賀茂泉酒造さんは、大正元年創業、戦後いち早く純米酒造りに取り組まれました。炭素ろ過を行わずほんのり山吹色をした味わいのあるお酒が特徴です。

普通の酒蔵見学ですと、杜氏さんや蔵人の方の作業を遠巻きに見させていただける程度ですが、今回は体験実習です。実際に、冷水で洗米し、蒸米を木桶で運び、熱々の蒸米をシートに広げてほぐしたりと、お手伝いをさせて頂きました。更に、通常では絶対に入ることの出来ない酒蔵の心臓部・麹室にまで入れていただき、米麹の造りもお手伝い出来ました。麹室に入って、目の前で種麹を振り掛ける仕事を拝見し、麹菌の繁殖を手助けする“切り返し”という作業までやらさせていただいたときには、感動のあまり手足が震えるほどでした。


二日目の朝は、6時から作業開始でした。まだ、外は暗く、ひんやりとした空気の中もくもくと蔵人の方は仕事を進めていきます。朝食は、杜氏さん、蔵人の方と一緒に食堂で賄い食を頂きました。八十歳を越える杜氏の増田さんから戦時中のお話や蔵の方の生活など興味深いお話をたくさん伺うことが出来ました。

昨晩は、蔵元・蔵人の方との懇親会を開いていただき、蔵元の女将さんの手料理で地元・瀬戸内の海の幸や西条の名物料理・美酒鍋、酒粕を使ったデザートまで頂きました。美酒鍋というのは、すき焼き鍋に野菜や肉を入れ、清酒を注いで蒸し煮のようにして食べる鍋物で、もとは蔵人の方が賄いとして食べていたという記録を古文書から発見しそれを地元の料理屋さんが現代に復刻させたものだそうです。

酒蔵の方というと、寡黙で少々気難しそうなイメージがありましたが、今回の体験実習を通して、皆さんとても親切に教えてくださいました。ここ広島・西条地区は、明治期に軟水での本格醸造を確立させ、日本で最初に吟醸・大吟醸酒を世に広め、戦後いち早く純米酒造りの復活に取り組まれた、近代日本酒の歴史において大切な役割を担う業界の先駆者でありました。常に高い志で日本酒造りに取り組まれてこられた広島の酒造家の方々に接することができたたいへん貴重な体験実習となりました。

懇親会の時に頂いた賀茂泉さんの純米吟醸の燗酒はとても美味しく、あさだでも早速燗酒のラインナップに加えました。