松下幸之助さんの言葉

好況よし、不況さらによし」

松下電器(現パナソニック)の創業者で、かつて「経営の神様」と言われた松下幸之助さんのたいへん有名な言葉でご存知な方も多いと思います。

私がこの言葉を知ったのは、今から26年前、日本料理の勉強を始めて二年目のことでした。当時勤めていた「ろくさん亭」の先輩が、一冊の本を私に勧めてくれました。

てっきり料理の本だろうと思ってタイトルを聞いたらたら、なぜかビジネス書のジャンルに入る松下幸之助さんの語録集「松翁論語」という本で、先輩曰く「将来役に立つから読んでおけ!」とのこと。

当時はAmazonなどない時代でしたので、さっそく本屋で取り寄せてもらい読むことにしました。料理修業二年目の頃と言えば、毎日くたくたになるまで働いて、頭の中は目の前の料理の仕事のことしかなかった私でしたが、なぜだか松下幸之助さんの言葉は仕事で疲れ切っていた自分の中にスッと入っていくものばかりで、それ以後、料理の専門書をむさぼり読む一方で松下幸之助さんの著書も集めて読むようになり、気が付いた時には松下幸之助ファンになっていました。

沢山の著書の中で、一番心に刻まれたものが「好況よし、不況さらによし」という言葉でした。経営者であれば、不況や不景気を望む人なんて誰もいません。でも、その不況時さえも会社や自分自身さらには社会全体をより良くするための契機ととらえるメンタリティがリーダーには必要なんだということを、この言葉から教えて頂きました。今風の言葉で言えば、「ピンチはチャンス」といったところでしょうか。ちょっと軽いかな。

以後、家業の蕎麦屋を継いでからは、この言葉は私の仕事における座右の銘の一つになりました。この20年、色々な出来事がありましたが、その都度ぶれずにやってこれたのもこの言葉も含め松下幸之助さんの数々の言葉が経営者としての心の軸になっていてくれていたおかげだと思っています。

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっている今、日本国内も不況を超えた戦後最大の国難となっています。弊店も臨時休業を余儀なくされておりますが、こんな時こそ、松下幸之助さんの言葉を噛み締めて日々を過ごしていきたいと思います。幸之助さんは、「好景気のときは、駆け足をしているようなものだ。一方、不景気はゆるゆる歩いているようなものだ。駆け足のときは他に目が移らないから、欠陥があっても目につかないが、ゆるゆる歩いているときは前後左右に目が移るから欠陥に目がつき、修復訂正ができる」と言われました。
新型コロナウイルスが終息し再び社会が正常に動き出した時に備え、またお店を再開した時に備え、この時間を有効に使って準備を整えておきたいと思います。

ちなみに、私に松下幸之助さんのことを教えて下さった先輩は、今ドバイにある世界的にも有名な日本料理店で仕事をされています。
先輩、ありがとうございました。